ザカー(浄財)の支払い方
⑦ザカー(浄財)の支払い方
● ザカーの支払いに関する礼儀作法:
以下のことがザカーの支払いにおける礼儀作法の一部です:
① 義務付けられた時に支払うこと。
② 快く支払うこと。
③ 所有している物の内から、最善かつ最も自分にとって大事な物、最もその獲得手段においてイスラーム法に抵触している危険性のない物を選ぶこと。
④ ザカーの徴収人(がいるならば、彼)の満足するようなザカーの拠出を行うこと[1]。
⑤ 自惚れが生じぬよう、施す物を過大視しないこと。
⑥ 虚栄心が生じぬよう、密かに施すこと。
⑦ その義務性を謳い、かつ富裕な者を施しへと刺激すべく、時には人前で施すこと。
⑧ その施しによってそれを受取る者に恩義をかけたり、嫌な思いをさせたりしないこと。
● ザカーを施されるべき者:
ザカーを施す対象の内で最適な者は、よりタクワー[2]の念が強く、より近縁で、かつよりその必要性がある者です。ゆえに施しの際には親類やタクワーの念の強い者、学徒、慎ましさゆえに物乞いが出来ないような貧者、困窮状態にある大家族など、施しに最もふさわしいと思われる者を探すようにします。またザカーであれ任意の施しであれ、それが出来る時に行っておく方がよいでしょう。
また貧しい親類縁者や苦学生のように、上記の特徴が重複するほどザカーの対象としてふさわしいということになります。
至高のアッラーは仰られました:-そして死が訪れる前に、われら(アッラー)があなた方に授けた物の中から施すのだ。(その時人は悔やんで)こう言うのである:「主よ、もう少し(命の)猶予を与えて下されば、きっと私は施しをして正しい者となるでしょうに。」,(クルアーン63:10)
● ザカーを支払う時期:
1-正当な理由がない限り、ザカーの義務が発生したらすぐザカーを支払わなければなりません。
2-もしザカーの義務の発生要因が揃っているのなら、ザカーの義務の発生時期前に支払いを済ませることが可能です。
例えば家畜や金銀・貨幣、商品などは、それらにザカーが課される最低法的基準に達している場合、義務発生の時期前にザカーの拠出を済ませることが出来ます。
3-もしそれが福利に適うのならザカーを1、2年早めて施し、それを貧者に月給の形で支払うことも出来ます。
4-給料や不動産の賃貸料金、遺産相続などある時期に様々な種類の財産を所有した場合、その各々に対する所有後1年が経過した時点でそれぞれのザカーを拠出します。そしてもし貧者などザカーの受給対象者の福利を優先させたい場合、ラマダーン月など1年の内ある月を自分のザカー拠出月と決めるようにします。
● ザカーの分割:
ザカーは本来1人に与えるべき物を分割して集団に施すことも出来ますし、またその逆も可能です。最良なのは諸々の福利を考慮しつつ、自らの判断でザカーを内密に、あるいは顕わな形で分割させることでしょう。しかし何らかの福利のためでない限り、本来は内密に行うのが正当な手法です。
● ザカーを統治者に支払うこと:
1-宗教を遵守し、ムスリムの福利を守ることにおいて信頼性のある統治者は、富裕層からザカーを徴収し、それをイスラーム法で定められたザカー受給者に分配することが出来ます。またそのような場合、統治者は家畜や農産物、果実類などの顕現している財産のザカーの徴収のため、徴収人を遣わさなければなりません。というのも全ての者がザカーの義務性を知っているとは限らず、かつ中にはザカーの義務を怠ったり、忘れてしまったりする者もいるからです。
2-もし統治者が富裕層からザカーの拠出を要求した場合、それに従わなければなりません。それによってその者の義務は果たされたことになり、報奨を得ます。そしてその統治者がザカーを用いることにおいて犯すことになるかもしれない罪に関しては、ザカーを拠出した当人は問われません。
● ザカーが定められたことに潜む英知:
ザカーはその義務発生後、その者の信託となります。それゆえもし本人の過失や怠慢[3]などによってザカーが課された財産が何らかの被害に遭ってしまった場合、彼はその責任‐つまりザカーを支払う義務‐を問われます。そしてもしその被害が彼の過失や怠慢などから来るものではなかった場合、彼はその責任を問われません。
● ザカーを支払う場所:
ザカーは自分のいる国の貧者に支払うのが最善ですが、何らかの福利や近親関係、差し迫った必要などの理由がある際には別の国に移転させることも可能です。自分で支払うのが最良ですが、別の者に代理を頼んで支払うことも出来ます。
● 債権のザカー:
1-いつでも回収出来るような債権を有する者は、それを回収した後にそこに課されたザカーを支払います。しかし回収前にそのザカーを支払うことが最善でしょう。またもし債務者がその債務を能力的に返済出来ないような状態であったり、あるいはそれを渋って履行しようとしない者であったりしたら、それを回収した際に過去1年分のザカーのみを支払います。
2-誰かに債権を有しており、債務者がそれを返却出来ないような状態にある時、それをザカーとして施す名目で免除することは出来ません。
● まだ入手していない財産に関して:
確実に入手していない財産にはザカーは課されません。例えば外的要因ゆえにまだ入手出来ていない不動産や遺産の配当のような財産は、確実に入手するまでザカーが課されません。そして入手した時点で1年の計算を開始します。
● 財産に課されるザカーはその財産そのものにかかるのであり、それゆえその土地で拠出するようにします。一方斎戒明けのザカーは財産自体にではなく身体にかかるものなので、どこででも支払うことが可能です。
● ザカーを支払わないことの罰:
1-ザカーの法的地位を知りながらその義務性を否定し、それを支払わないことは不信仰です。そのような者は強制的にザカーを徴収され、もしその誤った考えから悔悟しなければ背教者として処刑されます。
一方その義務制を否定してはいなくとも吝嗇さゆえにザカーを支払わないことは不信仰ではありませんが、やはり強制的にザカーを徴収されます。そして財産の半分を罰として没収されます。
2-ザカーが課せられる最低法的基準額に達した財産を有する者は、その所有後1年が経過したらザカーを支払わなければなりません。アッラーはザカーの拠出を拒む者に対して、厳しい懲罰の警告をされました:
① 至高のアッラーは仰られました:-そして金銀を貯め込み、それをアッラーの道において施すことのない者たちには痛ましい懲罰の知らせを伝えよ。それらはその日地獄の業火で熱せられ、彼らの額と脇腹と背中に焼き付けられる。(そしてこう言われるのだ:)「これこそお前たちが自分たちのために、(現世において欲深く)溜め込んでいた物である。ゆえにお前たちは(この日)お前たちが溜め込んでいた物を味わうがよい。」,(クルアーン9:34-35)
② アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“アッラーが授けられた財産に課せられたザカーを払わなかった者は、それが審判の日に禿げた蛇の姿で彼の許に現れ、彼に巻きつこう。そして彼の下あごに噛み付き、こう言うのだ:「私がお前の財産だ。私がお前の財宝だ。」”そして(預言者は)こう唱えました:-そしてアッラーの恩恵によって授けられた物において吝嗇する者たちが、得をしているなどと考えてはならない。実にそれは損失なのだ。彼らの吝嗇していたものは審判の日、彼らに巻きつけられるであろう。そして天地が消滅しても、アッラーのみが全てを引き継がれる。アッラーこそはあなた方の行いを熟知されているお方である。,(クルアーン3:180)」(アル=ブハーリーの伝承[4])
③ アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“そのザカーを支払わなかった財産の主は(審判の日)、地獄の業火によって熱されて板状にされたその財でもって脇腹と額を焼き付けられるであろう。そして5万年に相当する1日の間、アッラーがしもべたちの間を裁かれるまでその状態にあるのだ。”」(ムスリムの伝承[5])
④ アブー・ザッル(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:“私の魂がその御手に委ねられているお方にかけて‐あるいは:かれの他に真に崇拝すべきものがないお方にかけて。ラクダ、あるいは牛、あるいは羊を所有していたのにその義務(ザカー)を果さなかった者には審判の日、それらが巨大な姿になって(彼の許に現れ)、彼をその足で踏みつけたり、角で突き刺したりするであろう。そしてその群れの最後のものが立ち去れば、また最初のものがやって来(て懲罰を加え)るのである。そしてそれはアッラーが人々の間をお裁きになるまで続くのである。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[6])
[1] 訳者注:つまり出し惜しみしたり、なるべく自分に負担の無いように策略を練ったりしないことです。
[2] 訳者注:「タクワー」は「自らを守る」という動詞の名詞形。つまりアッラーを畏れ、またそのお怒りと懲罰につながるような行い‐つまりかれが命じられたことに反したり、あるいは禁じられた事柄を犯したりすることなど‐を避けることで、自らの身をアッラーのお怒りや懲罰から守ることを意味します。
[3] 訳者注:ここで言う「過失」とは行うべきではないことを行うこと、そして「怠慢」とは当然すべきことを怠ることを意味します。
[4] サヒーフ・アル=ブハーリー(1403)。
[5] サヒーフ・ムスリム(987)。
[6] サヒーフ・アル=ブハーリー(1460)、サヒーフ・ムスリム(987)。文章はアル=ブハーリーのもの。